とりをあつめて

窓を開ける、近所を歩く

とりをあつめて(その33)

『オーヴァーシーズ』

(録音)1957年8月15日 ストックホルム
トミー・フラナガン(p)
ウィルバー・リトル  (b)
エルヴィン・ジョーンズ(ds)


最近よく聴いていたCDにも、「とり」を見つけました。3曲目の「ECLYPSO」という曲(フラナガンのオリジナル)。エクリプソ、エクリプソ、エクリプソ……もしかして、と思い調べてみると、やはりこれは造語でした――「エクリプス」と「カリプソ」を合わせて、「エクリプソ」です。

カリプソ」というのはカリブ海生まれの音楽のひとつ。この音楽について、くわしいことはよく分かりませんが、この曲にも「カリプソ」のリズムや味わいが入っているのでしょう。

そして「エクリプス」。これは月食や日食の「食」を表す言葉で、つまり「覆い隠す」とか「姿を消す」といった意味があります。鳥とは無関係に見えるこの「エクリプス」という言葉、実はカモ好きにはおなじみの言葉です。

日本で見かけるカモは、そのほとんどが渡り鳥で、秋に北方からやって来て、春に故郷へと帰って行きます。日本でひと冬を越しますが、ただただ寒さをしのいで、毎日を暮らすだけではなく、冬のあいだにペアをつくります(カモの求愛行動は、1月や2月によく見られる)。カモたちの故郷は夏が短いので、越冬ついでにペアをつくって、ペアで帰った方が効率がよい、そういうことらしいです。

多くのカモは、雄が特徴的な色や目立つ姿になっており、それに比べて、雌はひかえめな色味をしています。目立つということは、危険と隣り合わせ(捕食者にも狙われやすくなる)でもあるので、意味もなく派手になることはありません。雄のカモが派手な見た目になるのは、もちろん求愛のためです。

さて、繁殖を終えて、目立つことの意味がなくなってしまう真夏、雄のカモは見た目(羽)をがらりと変えます。同種の雌との区別も難しくなるような、ひかえめな色味になります。これを「エクリプス」といいます。まるで月食のように「覆い隠す」「姿を消す」、ぴったりの言い回しです。

ほかの鳥、たとえばハクセキレイなども、繁殖期(春~夏)と非繁殖期(冬)で羽色を変えます。通常、季節と行動の組み合わせは、このハクセキレイのパターンになることが多いので、繁殖期の見た目を「夏羽」(目立つ色)、非繁殖期の見た目を「冬羽」(ひかえめな色)と呼びます。が、カモの場合は、冬に目立つ色(繁殖羽)になって、言葉の持つ意味がひっくり返ってしまうため、非繁殖期の羽色を「冬羽」ではなく「エクリプス」と呼び分けることになったようです。

真夏、繁殖を終えて「エクリプス」になったカモは、10月ごろ、「エクリプス」姿のまま日本にやって来ます。秋のはじめから観察していると、「エクリプス」⇒「繁殖羽」⇒「求愛」の経緯を追うことができて、季節の移ろいのようで、とても愉しいです。

フラナガンはもちろん、カモの羽色を想って、この曲名をつけたわけではないでしょう。でも、ちょうどこの曲が録音された8月、雄のカモたちはまさに「エクリプス」へと移ろい、そしてその後、秋に海を越えます(アルバムのタイトルは『オーヴァーシーズ』!)。このアルバムも、北米のアーティストであるフラナガンたちが、海を越えて、ストックホルムで演奏したもの。そして、カリプソもジャズも、いろいろな音楽が海を越えて、混じり合っていきました。カモのおかげで、そういう想像が膨らんで、さらに好きな1枚となったとさ。